こんにちは。ミクです。
……どうもお兄ちゃんとお姉ちゃんがデキてるっぽい。
うーん、まぁ薄々はそんな気がしていたけれど。
カプ厨のマスターの差し金で、一気に進展した模様。
普通に目のやり場に困ります。当てられまくり。
リンとレンも最初っからあんな感じだし。
もう、やだやだ!みんなして!!
私が何も気が付いていないとでも思ってるの?
……思ってるんだろうなぁ……。自重して、なんて言えないし。
あ、マスミクってのも、あるだろ、って言うだろうけど。
残念ながらうちのマスターは女の人です。私終了のお知らせ。
しょうがない。私は「みんなのアイドル」路線を突っ走るわ。
恋に恋しながら恋の歌を歌うわ。
諦めて落ち込んでいたことさえすっかり忘れてしまっていた、そんなとき。
我が家のPCに新しい人がやってきたの。
「マスター、また家計が火の車なんじゃないですかー?」
「もやしでお腹一杯になれるよ!心配ナッシング!」
「っていうか、電気止められたら私たちアウトだからー」
「そっちの心配かよ!」
ディスプレイの向こうで、マスターがwktkしながらソフトの封を切っている。
やがて、ROMが回る音がして。新入りさんが目の前に現れました。
「……っ!」
何?なんなの!!この綺麗な人は!!
事前にネットとかで見てたけど!
白馬の王子様…とは要所要所違うかもしれないけど!
ナスとか、ナスとか、ナスとか。それ以外は王子様…だよね?
完全に舞い上がっている状態で、第一声を聴いて。
「お初にお目にかかる。神威がくぽでござる」
盛大に、そりゃもう盛大に。恋に落ちる音がしました。
まるで後頭部を鈍器で殴られたかのように。
「ミクー、ちょいちょい」
「はぃいっ!!何ですか!!」
「どーしたよー、最近ボーっとして」
マスターがニヤニヤしながら声をかけてきた……
こりゃー多分、バレてるんだろうなー。
そして、耳元でささやいたんです。
「相手はお侍さんだからさー、ロリでもショタでもいけるんじゃねー?
先手必勝だよーミクさんよォー」
けしかけてるよこの人!!そういや、マスターはカプ厨だったっけ。
「いっ!!言われなくたってーーー!」
「よーし、その意気だ!」
総元締めのお許しも出たことだし!遠慮無くアタック開始だ!
がくぽさんとの家族ぐるみのお付き合いが始まりました。
同族で同業者で同じPC内の仲間として。
姉ちゃんとお兄ちゃんは、自分達が散々苦労してきたから、
出身の違う新人さんのことを色々気遣っている。
リンレンもすっかり懐いちゃってるし。
「バカイト兄よりよっぽどお兄ちゃんっぽい」とか言いながら。
見目麗しいだけじゃなくて、礼儀正しさと物腰の柔らかさが魅力なのかなぁ。
現状では私の恋のライバルになるような人も居ないし、
がくぽさんが既に出来上がってる二組に入って行く様にも思えない。
だって、男性陣がガッチリとガードしてるんだもん。あからさまに。
そのガードが無い分、私はがくぽさんにお近づきになりやすいんです。
だから、これといって問題は無いんですが。
子ども扱いされているのがありありとわかるの。
そりゃ、お姉ちゃんに比べれば貧乳だしさー。
でも結婚だって出来る年齢だよ?
お侍さん自体がその辺のストライクゾーン広いって聞いてたのに!
……そもそも、どうアタックしていいか、なんてわからないのよね。
この想い、伝わるわけがない。うーん、これは困った。
そんなこんなで。すっかり今では園芸友達です。
今日も今日とて、青空の下、一緒にお互いの畑の雑草取りしてます。
「ミク殿、この地は冬に雪は降るのか?」
「うーん、そういえば前の冬は降ってなかったですよー」
「農作物と気候の間柄は長い目で見ないとわからぬからなぁ」
とか、
「連作障害はどうしたらよいものかのう」
「ナスは大変ですね。土はマスターに相談したら取り替えてくれるかも?」
とか。
何よ、このムードもへったくれも無い会話。
なーんて思いながらも、こんな風に二人っきりで過す時間が大好き。
ネギよありがとう、そしてナスにも感謝。
今までは畑で一人で歌いながら寂しく農作業してたから。
軽く歌を口ずさめば、お互いにハモってみたりして、即興セッション。
本当に気持ちいいんだ、がくぽさんの低音。
嬉しいのに、楽しいのに……なんだか涙が出そうになる。
やっぱり、恋してるんだよね。きっとこれが切なさ、ってヤツ。
暑い。夏野菜は収穫期まっさかり。
太陽の恵みは雑草の生命力も高めるワケで。
「もーーー草取っても取ってもキリが無いよー」
「いやいや、おかげで採っても採ってもキリが無いほど実っておるぞ!」
多分夕食は麻婆茄子になりそうだなぁー、とか考えていたら。
急に空が暗くなってきた。
「これは一雨来るな、早く終やしてしまおう!」
早く作業を終えようと急いでいる私達にお構いなしで、大粒の水滴が空から落ちてきた。
「やだーーー!これ、ゲリラ雨だ!!」
雷鳴と共に冷たい風が吹いてきた。
「早く家に戻るぞ!!」
がくぽさんは私の手を取り、それに引かれて私は走り出した。
あ、手を繋いでくれた!よっしゃーーーー!!
……って、ちょっ?!
「きゃああああああーーーー!!」
養分たっぷりの土壌が、水を含んで容赦なく私の足をあらぬ方向へと!
どうすることも出来ず、思わず目を瞑る。
地面へ見事にダイブ……あれ?感触が違う。何だかやわらかい。
恐る恐る目を開けてみると。
私の下にがくぽさんがいるしーーー!!
「怪我は無かったか?」
「ど、どうして!?」
バランス崩した私を庇って、咄嗟にクッションになってくれたんだ。
それを理解するのにちょっと時間がかかった。
「……!ごめんなさい!!がくぽさんこそケガは無い?!」
「この程度で怪我などしてたまるか。女子を守れぬほど軟ではないわ」
この状況で見せる、その穏やかな笑顔を見て。
やだ、涙が。
「どうした!やはり怪我を……!?」
「ちがっ!」
バリバリバリ!!
光とほぼ同時に雷鳴が轟く。
思わず悲鳴を上げてがくぽさんにすがりついた。
「大丈夫だ、近くに落ちたからもう此方には落ちぬ」
私の頭を、大きな手が優しくなでる。
「降りも本格的になってきた、早く戻るぞ……」
だめだ。動けない。
「どうしたのだ?」
がくぽさんも困っている。でも、どうしても。
この言葉を押し込める事は出来なかった。
「……私、がくぽさんのことが好きなんです…!!」
「……今何と?」
雨音に、雷鳴に、かき消されないように声を振り絞る。
「私はがくぽさんが!大好きなんです!!」
泣きながら叫ぶ、なんて告白なの。
惨めだけど、堪え切れなかった。涙も止まらない。
私を抱えたまま、無言でがくぽさんは上体を起こす。
どうしよう。自分で言っておいて何なのよ私……。
「拙者も、ずっと、ミク殿のことが好きだった」
自分の耳を疑いながら顔を上げると、がくぽさんの真っ直ぐな目線が。
荒れ狂う空の下、お互い貪る様にキスをしていました。何度も何度も。